恋
「なんかよくわかんねーけど、無理だけはすんなよ」
「ああ、サンキュ」
浩介くんは本気で夏木くんの心配をしてるんだ。
眉をひそめて食い入るようにそのテーピングの部分を見ている。
『出場者の皆さんはスタート地点付近に集まってください』
会場内にアナウンスが流れる。
夏木くんは顔を上げると「じゃあ俺は行くから」と背を向けた。
「頑張れよー。……さて俺達も応援場所キープしようぜ」
浩介くんはゴール地点から一番近い曲がり角の辺りを陣取るつもりらしい。
歩き出す浩介くんの後についていきながらも気になって振り返ると、夏木くんと目が合った。
こっちを見ている。
立ち止まって、もの言いたげに。
胸の奥で何かがはじけたような気がした。
「浩介くん、私ちょっとトイレ行ってくる」
適当な言い訳を言ってに、私は踵を返した。
夏木くんの脇を通り過ぎながら、そっと彼に視線を送る。
その合図を理解したのか、私が建物の影に入った所で彼がゆっくりと追いかけてきた。