恋
ゴール前
「どういうことだよ、芽衣子」
頭の上から聞こえてきた声は震えていた。
マラソンゴール前の歩道は応援する人の歓声が大きかったけれど、聞き慣れた声は私の耳にしっかり届いた。
「ごめんなさい」
この言葉を繰り返したのは何度目だろう。
涙が溢れて視界がぼやける。
痛みをこらえているような表情で走る“彼”は一瞬私をみて、驚いたように足の動きを緩めた。
「何で今そんな話……、それに何で、俺何かしたのか?」
「違う。浩介くんは何にも悪くないの。ただ、私が、……恋をしてしまっただけなの」
浩介くんのことが、好きだと思っていた。
だけど今の気持ちとは比べ物にならない。
恋ってこんなに苦しくて、自分の思い通りにならなくて。
だけど目も離せない、そんなものだったんだ。