「俺も阿呆だ。……それでも嬉しかった」


夏木くんの手のひらが、一瞬頭に触れくしゃりと髪をかみ乱す。

その一瞬に甘さを感じてしまうのは不謹慎だと思うけれど、それでもまるでキスをするような濃密さがあった。

けれど離れた途端にその甘さは消え、現実のチクチクした痛みが全身に広がっていく。


「俺は救急車に付き添う」

「わ、私は。……浩介くんを見てくる」


目と目を見合わせて、お互いに頷いて別行動に移る。


私たちの恋は、こんなに色んなものを壊す恋だったのか。


それを知っても止められないこの麻薬のような常習性は何だというのだろう。


時折交わすまなざしが罪の意識を深くしながら、感情までも深くする。

もし今何もかもを投げ捨てられるのなら、私はあなたに全てを捧げてしまうだろう。

たくさんの人の視線と、浩介くんと怪我をした彼女が、なんとか私の強欲さを押さえつける。



初めて知った。

恋は、甘いだけじゃない。

汚くて自分勝手で、それでも捨てられないような魅力あるものなんだ。




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