恋
「……あの人」
彼女だ。
マラソン大会の日、彼をかばって怪我をした女の人。
「匡深春菜(まさみ はるな)。同じ理学部の数少ない女子」
「どうして……」
「さっき夏木に問いただしたら、付き合ってるって言った。どういうことなんだ。何で俺は芽衣子と別れなきゃならなかったんだ?」
胸が痛い。
並んで歩く二人と見ているだけで、心臓に串を突き立てられてるみたいに痛い。
浩介くんが何か言ってるけど、それも頭に入ってこない。
会いたかったのに。
心配してたのに。
浩介くんを傷つけたこと、苦しかったこと、二人で分かち合いたかった。
二人で彼に謝罪したかった。
でもそれも何もかも。
私の独りよがりだったの?
「……酷いよ」
「やっぱり芽衣子は知らなかったんだな?」
いつの間にか流れた涙が、足元にぼたぼたと落ちる。
私がそれを流したままにしていると、筋張った指が伸びてきた。