恋
浩介くんの指が、優しく私の目尻を拭う。
「浩介くん」
「この間。酷いこと言って悪かった。あんなヤツに芽衣子はやれない。もう一度俺のところに戻ってこいよ」
「……でも」
じくじくと痛むのは、私が夏木くんを好きな証拠だ。
私たちの間には、確固たるものは何も無かった。
それでも私は彼に恋をして。
彼の言動に揺さぶられたり傷ついたりしてる。
「私が、夏木くんを好きになってしまったのは。……本当なの」
「芽衣子」
「浩介くんにもう一度迎えてもらう資格なんか無い」
「資格なんか要らない」
浩介くんが私の手を掴んで、ぎゅっと握る。
そして、挑むような視線を夏木くんに向けた。
じっと見ていると、夏木くんのほうもこちらを振り向く。
一瞬、ぎょっとしたような顔をしたのはどうして?
私の姿をみたから?
私と浩介くんが手を繋いでいたから?
それとも、
彼女と居る姿を私に見られたから?
どれを取ってみても、裏切りだ。
裏切ったのはどっちなの?
私? それとも夏木くん?
混乱している今の頭では、何も考えられない。