「私、……浩介くんとも別れたのに」

「ヨリ、戻せよ。浩介の方はまだアンタのことが好きなはずだ」

「無理だよ」


あ、駄目だ。
そう思った途端に涙が零れ落ちる。


「私が、好きなのは、夏木っ……くん、だもん」

「……」


視界がぼやける。
彼の周りの境界がどんどん曖昧になっていく。


「好きなの。夏木くんが一番好きになったの。それを自覚したのに、他の人とは付き合えない。……だから、苦しいよ」

「……」

「私より、あの人が好きになったの?」


彼からの返答は無い。
ずっと沈黙を守ったまま、私をじっと見ている。

苦しい。
恋が自分で止められるなら、これほど楽なことは無いのに。
育ち始めた私の気持ちは、勝手に膨らみだしてもう私の手には負えない。
感情の風船を壊す針は、きっと夏木くんしか持ってない。


「お願い、……ちゃんと失恋させて」

「俺は……」


夏木くんの手が、俯いた私の視界に入る。
行き場がなさそうにさまよった指先はやがて手のひらに包み込まれる。
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