「芽衣子は振り回されただけじゃん。勝手に近づいてこっちの気持ちが傾いた途端に別の女に乗り換えるなんて最低だよ。夏木くんがいなきゃ、芽衣子はずっと浩介くんとうまくいってたのに」

「寧々。やめて。ここ食堂だよ」


昼休憩の時間は終わってるけど、学生の姿はちらほらある。
もし夏木くんの知り合いがいたら大変だ。


「止めないよ。芽衣子だっていつまで引きずってんのよ。浩介くんに戻る気ないなら、他の男捜そうよ。時間勿体無いって思わない?」

「寧々」


勿体無い……か。そういう考え方はしたことが無かった。


「勿体無いかな」

「自由に出来るのなんて今年一年くらいだよ? 三年になったら専門講義びっしりだし、就職活動とかも入ってくるじゃん。せっかくの大学生活、楽しまなくてどうすんの」

「……そうだね」


だけど。
今の私がどうやったら次の恋が出来るのかわからない。

今も、思い出すのは夏木くん。
触れそうで触れなかった唇、背中を伝った指、物言いたげなまなざし。
思い出の一つ一つが鮮烈過ぎるんだ。
それを風化させるには、数ヶ月では足りない。


「……子、芽衣子ってば」

「え?」

「ほら、またボーっとしてる。しっかりしてよ芽衣子。私、そんな芽衣子を見てるのは嫌だよ」

「うん。ありがと」

「じゃあ、サークル入ろ?」

「ごめん。それは……」


苦笑すると、今度は寧々が溜息をつく。

ごめんね。
寧々が心配してくれるのは嬉しいんだけど、心が上手く動いてくれない。



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