私と匡深さんは食堂をでて、大学構内の端の方まで歩いた。
構内は広い。講義棟や実験棟の近くは絶えず誰かがいる感じだけれども、グラウンドの方まで行くとサークル活動の時間以外はそれほど人がいない。

グラウンドが一望できるフェンスに背中を預けて、彼女が私を見た。
その鋭い眼差しにドキッとする。射抜かれてしまいそうだ。


「ねぇ」

「なに?」


私と彼女に接点は無い。友達でもない。

なのに私達の間には遠慮みたいな気遣いは会話の最初からなかった。

女同士だから?
変な遠慮してたら、恋は手にはいらないものね。


「どうして、伏木とヨリ戻さないの」


伏木は浩介くんの苗字だ。
彼女は挑むような目つきでその名を最初に告げる。

そんなことを聞きたいの?
私の恋はあなたに関係ないはずなのに。


「もう、別れてるから」


私が静かにそう答えると、彼女はまくし立てるように続ける。


「戻ればいいじゃない。好きだったんでしょ?」

「そう。好きだったの。過去形。今は……」

「言わないで!」


叫ぶように止めた匡深さんの声が、とても痛くて。
私はそれが、悲しい。

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