恋
「あのマラソンの日。あたし、夏木をかばって怪我をしたでしょ?」
私が頷くと、彼女も頷いて続ける。
「夏木がマラソン大会に出るって話。あたしは伏木から聞いたの。高校の時に怪我して走れなくなったのにってことも。それで心配で見に行ったの」
「浩介くんと同じだね」
「うん。伏木はすごい心配してた。あの二人、ホント仲いいんだよ。それに、伏木は優しいと思う」
「……うん」
そうだ。
浩介くんは優しい。いつもいつも。
だからこそ、あの時はびっくりした。まさか彼が、暴力を振るうなんて思わなかったもの。
「その伏木が、殴ったんだよ? 夏木がひっくり返るくらいの力で」
ギクリとする。
そこまでの怒りを、彼に与えてしまったのは私だ。
匡深さんは自虐的に笑うと頭をさすった。
「あたし、夏木が殺されるって思ったの。だから勢いだけで飛び出してた。次の瞬間には伏木に殴られて、そこから病院までの記憶はない」
「……あの時の怪我、大丈夫だったの?」
「少し痕になったけどね。でもこのくらいなら大丈夫」
「そう、良かった」
私が表情を崩すと、彼女も困ったように笑う。