「……間違ってるよって、夏木に言ったの。病院で手当が終わった後」

「え?」

「あの伏木をそこまで傷つけるのは間違ってるって」


その光景が想像できそうだ。

ずっと、浩介くんを傷つけたくなくて私を遠ざけていた彼。
その彼がようやく下した決断が、あんな結果を招いたのだとしたら。


「……夏木くんは」

「落ち込んでた。間違っていたのかもしれないって。だから言ったの。あたし」


夏木くんの心変わりの理由を、彼女は私の方に視線を向けつつ更に遠くを眺めながら語った。


「夏木が介入しなければ、伏木とあなたは自然に元に戻るって。夏木は、次の恋で癒やせばいいじゃんって」

「そんな」

「そしてあたしを選んだの」

「あなたが仕向けたの?」


思わずキツイ調子で問い詰める。匡深さんは一瞬怯んだけれど、負けてはいなかった。


「そうよ。だってあなた達が付き合ったって気まずいだけじゃない。伏木を傷つけたことは変わらないよ。付き合ったって罪悪感に潰される。だったら、あたしと付き合ったほうがよっぽど」

「……っ」

「……よっぽどっ」


どうしてここで言い淀むの。打ちのめすなら打ちのめしてよ。
中途半端な迷いにイライラする。

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