恋
「う、うえっ」
「匡深のこと、好きになろうって努力してた。でも、なれなかった。一緒にいても結局友達でしか無かった」
「でも彼女は」
「わかってる。全部俺が悪い。……でも」
彼は少し体を離して、私の涙でぐちゃぐちゃの顔をじっと見る。
「芽衣子に俺の気持ちを否定されるのは耐えられなかった」
「……夏木くん」
「その程度じゃない」
背中に添えられた彼の手は、私の体を確認するように何度も上下に行き来する。
「俺、アンタが好きだ」
待ち望んでいた言葉は、とても嬉しいのに。
今は素直に喜べない。
「……ずるい」
「知ってる。でも好きだ」
「……っ」
彼の硬い肩を、私は無言で叩いた。
今更何?
匡深さんはどうするの。
私のこの数ヶ月は?
責め正したい気持ちが暴発して。
それでも嬉しい気持ちも溢れだして、どうしたらいいのか分からない。
「……馬鹿っ」
「うん」
「最低」
「うん」
どんな言葉をかけても、彼は私を離さなかった。
散々叩いて、毒づいて、思いつく限りの暴言を吐き出して。
――――そして彼にしがみついた。
「……待たせすぎ」
一瞬ハッと息を飲んだ彼の口元が、私の頭上に落ちてくる。
「ごめん」
「うん」
「待っててくれたのか?」
「……うん」
顔をあげると、口元に笑みをたたえた彼が見えた。
――――ようやく届いた。
その安心感に、私はだらりと彼に身を預ける。
彼は私を抱きしめたまま、しばらくじっと動かなかった。