恋
砂の城
図書館の床は絨毯貼りで音を吸収する。
だからだろうか。
浩介くんが近づいてくることに、私は気づかなかった。
「芽衣子」
小さな、だけど通る声で名前を呼ばれてようやく正気に返る。
「……浩介くん」
「どうした? 変な顔して。まだ見つかんねーの? おせーなぁ」
浩介くんがくしゃりと笑う。
いつもなら安心感を感じる顔なのに、今は変な焦りに似た感情が湧き上がってくる。
「さっき、こっちの方から夏木来たけど、会わなかった?」
「えっ、あっ」
声が上ずる。
駄目だ。何も無かったような顔してなきゃ。