恋
「痛い? ごめんね」
「いや。平気だ。このくらい」
彼は頬を軽く触って、そして笑う。
「芽衣子はすごいな」
「え?」
「大人しそうに見えるけど、芯が強いっていうか……。俺がアンタを避けてた時だって、必死に向かってきてたもんな」
「あの時は、浩介くんの親友なのに嫌われてるなんて悲しいなって思ったからよ」
「それでもすごい。俺は、ずっと逃げてた。自分が我慢すればそれで何もかも収まるからって。……誰かを傷つけたくないから、なんてただの言い訳だ。でも……」
黄昏が部屋全体と私達を染める。眩しくて境界が曖昧になって、夏木くんがとても小さく見えた。
「夏木くん」
心配になって彼に伸ばした手を、すっと握られた。
「芽衣子といると欲がでる」
ちらりと私を伺った瞳に、心臓を貫かれたような衝撃を受ける。
「ずっと一緒にいたいって、思ってしまう」
諦めることの上手な彼の、正直な欲求。
胸に炎が灯る。燃やし続けたいからもっともっと燃料が欲しい。
「まだまだ足りないよ」
彼は不思議そうな顔をして私を見る。私の望んでるものがわからないとでも言うように。
「もっと欲張りになって。叶えたいこと皆言って」
「でも」
「私も一緒に頑張るから」