戸惑ったように、視線を動かす彼は、口元を抑えながらポツリポツリと呟く。


「……匡深を傷つけたことを謝りたいし、浩介とも親友でいたい」

「うん」

「芽衣子を、……自分のものにしたい」


それはなってるよ。
口の中でだけで呟いて、彼の首に手を回して抱きつく。


「叶えようよ、一緒に」


ぎゅっと力を入れよう。彼にちゃんと伝わるように。


「諦めるより先に叶える努力をしなきゃ」



――――これからは一人じゃないから、諦めないで。



「そうだな」


耳元でポツリと呟いて、彼は私をきつく抱きしめる。
一瞬離れたその時に、彼の前髪が額に触れた。


あの日、私を恋に落とした唇が、今度は確かに触れた。






【fin.】

< 77 / 78 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop