恋
戸惑ったように、視線を動かす彼は、口元を抑えながらポツリポツリと呟く。
「……匡深を傷つけたことを謝りたいし、浩介とも親友でいたい」
「うん」
「芽衣子を、……自分のものにしたい」
それはなってるよ。
口の中でだけで呟いて、彼の首に手を回して抱きつく。
「叶えようよ、一緒に」
ぎゅっと力を入れよう。彼にちゃんと伝わるように。
「諦めるより先に叶える努力をしなきゃ」
――――これからは一人じゃないから、諦めないで。
「そうだな」
耳元でポツリと呟いて、彼は私をきつく抱きしめる。
一瞬離れたその時に、彼の前髪が額に触れた。
あの日、私を恋に落とした唇が、今度は確かに触れた。
【fin.】