「ちらって見たよ。でも夏木くん忙しそうに行っちゃったから」

「そうだな、なんか焦って出てったもんな。つか、この辺にある本なんかあいつ読むんだなー」


読んでたのは源氏物語。
義理の母への想いを、こらえ切れなかった光の君の物語。


「芽衣子?」

「え?」

「大丈夫か? ボーっとして」

「あ、うん。……大丈夫」


目当ての本を今度こそ見つけ出して、彼の後について席に着く。

その後、私たちの間に響くのはページを捲る音ばかり。

同じ講義のための勉強なら話しながら出来るけど、明日はお互いに専門教科の試験だ。会話のしようが無い。

それでも時折顔を上げては、彼は私に微笑んだり、いたずらに指を触ったりする。

いつもならそれが凄く嬉しかったのに、今はなんだかきゅっと痛い。


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