ドメスティック・エマージェンシー
「江里子、もう高校は無理だろう。働け」

夕食時、父親が満面の笑みを浮かべて呪文を放った。
聞きたくない意思表示に目を伏せると「江里子」と少し怒気を含ませた声が飛んでくる。
仕方なく顔を上げると母が私のお茶碗にご飯をよそおっていた。

最近はご飯が食べられない。
押し付けられている感じで、胃が拒む。
なのに母親は作り笑いをくっつけて私に賄賂を渡してきた。

自分たちの都合の良いように動かすための賄賂。
いらない、と拒む。

「江里子、このままじゃあお前どうしようもない奴になるぞ。ニートより、大事な有馬のために働いた方が有意義だろう」

父親がすらすらと呪文を説く。
もう何度も繰り返された呪文なだけに流暢だ。

私は黙った。
言い返せなかった。
ただ言いようのない怒りがこみ上げる。






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