ドメスティック・エマージェンシー
殺したい。
二度と私を無視した発言をさせないようにしたい。
何故生きているんだろう。

この人も、母親も……私も。

「あっ、江里子!」

ライオンが檻の中の唯一の休息場に走り出す。
机の引き出しからカッターを取り出し、ベッドを見下ろして、振り下ろした。

両親に見立てて刺していく。
私の怒りのはけ口になってしまった布団は刺されていく度に空気を吹き出し、殺されていった。

死ねばいい。
死ねばいいんだ、あの二人が死ねばいい。
私はいらないだろう。

私は……

その考えが私を刺したとき、途端に息を呑み、綿を吹き出した目の前の布団が視界に入らなかった。

呆然とした。

私は、あの二人がいなくなったらどうなるのだろう。
存在価値を与えようとしてくる、あの二人がいなくなったとき――

ぜんまいが切れた哀れな人形は、死んだように倒れた。


     




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