ドメスティック・エマージェンシー
今は何時だろう。
私のドアを借金取りのように叩いていた両親も寝静まった夜更け、あのままずっと握られていたカッターを見据えた。

月光に狂気を光らせるカッターが私と重なる。

あの二人がいなくなったとき、存在価値が本当に無くなる気がする。

同時に締め付けていた鎖が無くなり身軽になる訳だが、身軽になったときの不安を私は一度経験した。

ならば、あの二人を殺さずに憎み続けようと言うのか。
そんなのは……苦しい。
この苦しみを解放したくて、殺人衝動に悩まされているのだ。

立ち上がると、影が一人の人格を持って伸びた。
影を連れて私はドアをソッと開ける。

二人で部屋を後にし、階段をこそ泥のように忍び足で降りた。






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