ドメスティック・エマージェンシー
気がついたらお風呂場にいて左手に剃刀、右腕は痛みを訴えて小刻みに震えていた。
途中までの記憶がなかった。


右手首から、まるでシャボン玉のように赤く丸い粒が出来上がっていた。
それは、形を崩して流れ星のように私の腕を伝って床に落ちる。


……ああ、またか、と我に返った私はため息をつく。
いつの頃からか、苦しいことがあればリストカットをするようになった。
そうすれば規則正しい呼吸になり、心は自分の足で立つことが出来た。
痛みを引き受けた右腕に感謝する。


ありがとう、また頑張れそうだよ。
ぽつりと呟いて、いくつもの線でタトゥーみたいになった腕を眺めた。
タトゥーを引き立てるかのように流れ星は止めどなく流れる。


落ち着いていった。
後始末や、跡が残るのは面倒だがいつまでも眺めていたかった。








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