ドメスティック・エマージェンシー
パイプ階段を上って更に奥に進み角を曲がると、ドアが密集している中そこだけ日常から省かれたように一つドアが付いていた。

ゼロに、私に、ぴったりの住処だ。

ゼロが鍵穴に非日常へ繋がる鍵を差し込み、ドアノブを回す。
開かれた非日常の中は薄暗く、臭かった。
洗濯物をため込んでいるような匂い。
葵の家とは違う匂い。

ゼロが躊躇わず入るのに習い、私も靴を脱いで中に入る。
ほとんどがゴミや服が散乱していて座るところが見失われている。

それでもゼロは、座れ、とおもてなしをしてくれたので無理やり座る場所を確保した。

「お前が遠いとこが良いって言ったから遠いとこを選んだんや、って言ったけどあれ嘘や」

鍵を小さな木の引き出しに片付けながらゼロが呟くように語った。

「ここにもともと住んでたんや、俺。家族と」






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