ドメスティック・エマージェンシー
「はい、コーヒー」

缶コーヒーを両手に、彼は片方私に手渡してきた。
熱された缶コーヒーは火傷しそうなくらい熱く、服の袖を伸ばして持つがまだ少し熱い。

糸部は警察を辞めたと言った。
なら、よもや私が家出したことも知らないんじゃないだろうか。
だとしたらチャンスだ。
この機会を逃す訳にはいかない。
色々聞き出してやろう。

そう思ってこの男に付いて来た。
本当はカフェへ誘われたがそんなに長く付き合うつもりもなく、断ったのだ。

「驚いたな、まさか君がこんなとこにいるなんて」

「もう連れ戻そうとしないんですね」

コーヒーを啜りながら横目で返事した。
苦笑いを浮かべる、彼の苦笑いがあまりにも似合っていて密かに笑った。








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