ドメスティック・エマージェンシー
少し値段が高いが彼が目立つことのない指定席を取って、ようやく一息ついた。

売店で買った弁当を手渡す。
私はのり弁当、ゼロは唐揚げ弁当だ。

「唐揚げ美味しそう」

「……やらんぞ」

「ケチ」

「大阪人はケチなんやで」

大阪人って締めくくるのはどうなの、と可笑しくなって思わず笑い声を上げるとゼロも笑った。

人と笑い合うのは懐かしい。
以前、葵と笑い合った。
他の誰でもない葵と……

葵の輪郭とゼロが重なった。
切なくなって、視線を外へやる。
私の心境など知らないゼロが「しゃーないから唐揚げやるわ、感謝せえよー」と恩着せがましい言葉をつけて私のお弁当箱に唐揚げを入れてくれた。

「……江里子?」

それでも反応しない私を訝しげに見つめる。

「あ、何でもない。ありがとう。じゃあ私はのりあげよっかな!」

「薄っぺらいやないか!唐揚げに相応せんわっ!」

すかさずフォローを入れると、大阪人らしいツッコミを入れられた。
今度は私だけがクスクスと笑った。






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