ドメスティック・エマージェンシー
「帰ってきたの、ゆうま」

女性は薄い唇で聞き覚えのない名前を呼んだ。

ゆうま……それが、彼の……ゼロの名前なのだろうか。
やはり《ありま》は被害者側の名前だったということだろう。

ゼロ――ゆうまの手にはサングラスがぶら下がっている。
私には見せない素顔、あの女性はゆうまの素顔と過去を知っているのだ。

「もうやらなければならないことはやり終えたの」

女性は優しげに、しかしはっきりと聞いた。
威圧的に、彼に黙秘をさせない口調。

ゼロは力無く首を振った。

「いいえ、まだです」

「じゃあ、何故……」

話が読めてきた。
彼はやらなければならないこと……殺人をするためにここから出て行ったのだ。
やり終えたら帰ってくると約束して。






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