ドメスティック・エマージェンシー
「……帰って来れなくなる前に、一目みんなに会おうと思って」

「えっ……」

それは、と彼女が続きを紡いだ時泣き声がどこからか聞こえてきた。
泣き声が彼らの間を通過する。

「あらやだ!ちょっと待っててね!」

ゆうまに向けてか、赤ん坊に向けての言葉かは定かではないが女性が慌てて施設内に入って行く。
その後ろを躊躇なく、ゆうまはついて行った。

なんということだろう、ここに着いて私は知らない彼を目の当たりにしている。
殺気に満ちていない、むしろ安心しきった彼。
無防備と言ってもいい……その姿は子どもそのもの。

尾行してしまったことに今更罪悪感を覚えた。
まるで知らない人を尾行している気分だ。





< 166 / 212 >

この作品をシェア

pagetop