ドメスティック・エマージェンシー
「でも、どうして……」

中絶を。
声に出せなかった。
その辛さや苦しみは私には到底理解出来ず、軽く口にすることを躊躇われた。

なおがカフェオレを一口飲んでからぽつりと言った。

「かなさんの両親が堕ろせって言ったらしい」

「……」

どう言えばいいのか分からず黙り込む。
なおは次々に語った。

「親として当然だろう。まだ若いかなさんには負担が大きすぎる、と思うでしょ?……違うんだ、かなさんの両親はそういうかなさんの心配じゃなかった。その証拠に、毎日汚らわしいだの恥曝しだの罵倒を浴びせたとか。裸にしてね。つまり、かなさんの両親は世間体の心配をしてたんだ」

言葉を失った。
こんなに酷い話があるものか。
胸が苦しくなり、目尻が熱くなる。
ただの想像しか出来ない脳も、またショックを受け体を震わせた。

親が子どもを無条件で愛すなど、無理なのだろうか。

「ゆう……ゆうまは……?」

ようやく彼のことを口に出来た頃には、なおはご飯を食べ終わっていた。






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