ドメスティック・エマージェンシー
「ありがとう、なおくん」
話が一段落付き、店を後にする。
もう夕方の三時だ、すっかり話し込んでしまった。
ところどころに学生たちが帰路へ繁華街へ向かっている。
「いや、こちらこそ」
なおは最初の頃よりも柔らかく笑った。
警戒を解いた猫みたいだ。
嬉しくなって、目尻にきらめくものをソッと取った。
「なに?」
「何でしょう?」
指に水滴がスッと馴染む。
なおの涙が私の細胞に浸透していくのを見届け、写真を貰えないか交渉してみた。
「いいよ、これもともとあげるつもりだったんだ」
「あ、ほんとに?ありがとう」
写真をカバンの中にしまう。
ふと、それだけじゃやはり不安になってポーチの中に入れていると一番聞かなければならないことを思い出した。
「ねえ、そういえば《ありま》って知ってる?」
「《ありま》?知ってるよ、それって――」
それを聞いた刹那……耳が音を遮断し、視覚を失った。
体が動かなくなり、なおの動く口が非現実なものに見える。
話が一段落付き、店を後にする。
もう夕方の三時だ、すっかり話し込んでしまった。
ところどころに学生たちが帰路へ繁華街へ向かっている。
「いや、こちらこそ」
なおは最初の頃よりも柔らかく笑った。
警戒を解いた猫みたいだ。
嬉しくなって、目尻にきらめくものをソッと取った。
「なに?」
「何でしょう?」
指に水滴がスッと馴染む。
なおの涙が私の細胞に浸透していくのを見届け、写真を貰えないか交渉してみた。
「いいよ、これもともとあげるつもりだったんだ」
「あ、ほんとに?ありがとう」
写真をカバンの中にしまう。
ふと、それだけじゃやはり不安になってポーチの中に入れていると一番聞かなければならないことを思い出した。
「ねえ、そういえば《ありま》って知ってる?」
「《ありま》?知ってるよ、それって――」
それを聞いた刹那……耳が音を遮断し、視覚を失った。
体が動かなくなり、なおの動く口が非現実なものに見える。