ドメスティック・エマージェンシー
通された場所は校長室だった。

初めて入った校長室は、加齢臭を消すために振られた芳香剤の匂いが充満している。
わざとらしい気品たっぷりのソファーは自己主張が強かった。

そのソファーに、スーツを着た男が二人。
一人は年配の男性で、彫りが深く目つきが鋭い。
その目つきのまま私を睨み付け自分の目の前のソファーに目をやった。

「どうぞ、お掛けください」

声も野太い。

もう一人は三十代前半で、彼とは対照的に顔の薄い人だった。

しかしどちらも共通しているのは、まるで砂漠でターゲットを見つけた猛獣のように私を見ていることだ。

目を逸らしながら言われるがままソファーに腰を下ろす。

すると顔の薄い彼が懐からなにかを取り出した。

「警察手帳……?」

言葉にしてようやく理解した。
考えれば当然のことだ。
きっと、殺人鬼のことを聞きに来たのだろう。

何も話さないつもりだ。
私は約束は破らない。

しかし私は……[イイコ]なのだ。
嘘を付けるだろうか。

心がせわしなく揺れた。






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