ドメスティック・エマージェンシー
跳ねるようにそちらに目をやると、右腕にギブスを付けた有馬がいた。

しかし、いつもの有馬ではない。
仇を討ちに来た目で私を睨み付け、鼻息を荒くしている。
その迫力にたじろいだ。

「あ、有馬……退院、おめでとう」

上手く笑えたか分からない。
恐らく笑えてなかったのだろう。
いつもの有馬なら「キモイ」とでも返してきただろうに、目の前の有馬は鬼の形相で私を逃がさないように目で捉えたまま近付いてきた。

気圧された私は、なのに後ずさることも出来なかった。

恐い。
初めて弟に感じた感情だった。

有馬が目の前に来た時、頭部に痛みが走った。
その痛みが継続する。

「い、いたっ……」

痛みに生理的に出た涙が溜まる。
歪んだ視界の中で見える有馬は余計に恐ろしく見えた。

自分と同じ目線になるように私の髪を左手で引っ張り続け、私は更に惨めな嗚咽が漏れた。

引きつる皮が髪の代わりに悲鳴を上げている。






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