ドメスティック・エマージェンシー
「なあ、お前今一人だろ」

痛さの中で有馬の声が地響きのように感じる。
嫌でも聞き逃せない、一字一句耳の奥で突き付けられる。

「俺がさ、言いふらしたんだよ。そしたらさ、お前の高校まであっという間に広まっちまった」

皮肉を込めた言葉に私は驚いた。
嫌だったのに、自ら耳を傾ける。
聞き逃さないように、何度でも再生出来るように有馬の口元を涙で歪んだ視界に写す。

「だって可笑しいだろ。不公平だろ。俺だけ不幸なんだぜ?こんなにも頑張ってきたのに水の泡だよ、ありえねえよ。なのにお前だけがのうのうと笑ってられるなんて、耐えらんねえ。――道連れにしてやるよ」

苦しそうに表情を歪ませ、有馬は私をゴミ箱に向けて投げ捨てた。

無能のくせに。
自分の涙を置いていくように言葉を呟き、有馬は部屋から出て行った。

置いていかれた言葉が私の中で何度も何度も衝撃を与えた。






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