ドメスティック・エマージェンシー
朝をこんなにも憂鬱に迎えたことが過去にあっただろうか。

上半身を起こしはっきりしない目で左手首に目をやると赤黒い塊がふてぶてしく居座っていた。
舌で舐めると口の中で広がる鉄の味。
右手に目をやると力なくカッターが横たわっていた。

布団には至る所に赤い水玉が出来ていた。

昨日の記憶があれからなかった。
その事に酷く心細くなる。
私一人時間から省かれたような気分。

耐えきれず、私は私を抱き締めた。


洗面所で髪をドライヤーでセットしていると有馬が鏡に現れた。
途端に私の顔が滑稽に強張った。

ドライヤーを直すことも、退くことも出来ない。
金縛りにあったように立ちすくんでいると、有馬が愉快そうに笑んだ。

私は身震いするだけで動けない。





< 27 / 212 >

この作品をシェア

pagetop