ドメスティック・エマージェンシー

今日は靴を隠されていた。
クラスで一番嫌われてる男子のとこに入っていて、彼がそれを届けてくれた。

あんな噂気にしないでよ、と太い眉を下げ小さな目を更に小さくして笑みを浮かべる彼に、私も笑いかけた。
幾分救われ、その気分のまま放課後になった。

校門の前に数人の男子生徒が立っている。
見覚えのある制服に息を呑んだ。

私が通ってた中学……有馬が今通っている学校だ。

まさか……いや、そんな訳ない。
誰か別の人を待っているのだろう。

素知らぬ顔をして、一方で心臓が歩幅と共に大きく早鐘を打つのを必死に隠しながら横断しようとした。
――刹那、彼等が目の前に立ちはだかった。

私を待っていたのだ、分かっていたのに戸惑いを隠せない。
しかし年上の威厳として彼等を真っ直ぐ見据えた。

精一杯の反撃だった。
男の子が、口を開くまでは。

「遠藤の、お姉さんですよね」

短く刈り上げた有馬と似た髪型の男の子が私に言葉を撃った。

撃たれた私は、息を止め、否定がしたいのに言葉が出ず、足元がふらつく。
肯定と見なしたらしく、男の子は静かに、だけど荒々しく、そして悲しげに語った。

「遠藤、俺らの前で泣きながら言ったんです。自分にはもう何もないって。バットを振ることも、ボールを投げることも出来なくなった腕に、自分に、価値はないって」