ドメスティック・エマージェンシー
沈黙が自然に入ってきた。
有馬の携帯ゲームの音楽と、熱くなりつつある水の音が不自然に目立った。
弟を見ると不意に目が合い、久しぶりにきちんと視界に入れた彼は相変わらず実年齢より幼く見える。


「なに作ってんの?」


今日初めて有馬は私に向かって口を開いた。
その事実に僅かに戸惑いながら、なにも、と答える。
白湯を飲みたいだけだったのだが、彼には意味が伝わらず、舌打ちされた。


「お前って本当に意味わかんねえ」


中学三年生である有馬は将来有望で、野球部で好成績を残し、お陰で有名校からも推薦が多数来ているらしい。
野球のことはよく分からないが、両親が大げさに喜んでいたのを思い出す。
それこそ私が高校に受かった時よりも、ずっと。


やかんから湯気が噴き出し、慌てて止めてカップへ注ぐ。
白湯を飲むと落ち着いた。
冷たい身体が器官だけ温まり、次第に広がっていくのを感じた。







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