ドメスティック・エマージェンシー
有馬だ。
力無く長い左腕をぶらりと下げ、存在感が薄まり、表情も俯いているため見えず、少し不気味で僅かに驚いてしまった。

ふと、あの時有馬が暴力を振るってきた痛みが蘇りとっさに身構えた。
それでも恐る恐る、問い掛けた。

「……どうしたの」

答えない。
魂を無くした少年が、ただジッと佇んでいる。

私と有馬の間に言葉はない、互いの思考が流れた。

もしや、有馬は……
さっき盗み聞きした父と母の会話を思い出し、焦燥感に駆られる。

もし、有馬があの話を聞いていたのなら……どう思うだろう。

胸がグッと痛くなる。

その時、脳裏にある光景が浮かんだ。







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