ドメスティック・エマージェンシー
その日は雨が降っていた。

まるで、雨の一粒一粒が檻のように感じる大雨。
ただでさえ嫌いなのに、音まで煩わしい。
神経を和らげるために読書をしていた時だった。

有馬がソッとドアを開けた。
しばらく気付かなかったくらい、静かに開けた。

驚いたが、声は出さなかった。
チラッと有馬の後方に目をやると荷物があった。

会話はない。
動作もない。
だが、私たちは視線をぶつけ合い、絡ませ、さよならの会釈をした。

そうして有馬が部屋を出て行った。
私は導かれるように、ベランダに出る。

溶けた檻が足を濡らし、私を閉じ込めようとする檻が上から降ってくる。
冷たさに身震いしながら下を見下ろした。

有馬が家を出て行く。
家から出たのに、苦しみの檻は有馬を逃がさない。


後で知った話だが《しばらく探さないでください》と、殴り書きで書かれた置き手紙が有馬の部屋にあったらしい。






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