ドメスティック・エマージェンシー

担任が家に来た。
私が不登校を始めて二週間が過ぎた頃だ。

父はさすがに仕事に復帰せざるを得なくなり、母が「どうしてこうなったの」と泣いていた時だった。

私はいつも通り二階にいた。
母が玄関で担任と話しているのが聞こえる。
盗み聞きじゃない。
むしろ聞きたくない。

なのに、耳をそばだてる。

やめろ、私の耳。
聞くな。

耳を塞いで頭まですっぽり布団を被る。
嫌でも聞こえる担任の声は、私に学校を、クラスメイトを、あの出来事たちを思い出させた。


靴を隠されるくらいならまだ良かった。

前、靴を届けてくれた嫌われ者の男の子……名前は谷口というらしい。
谷口の席に押されたのがいじめをヒートアップさせる発端だった。