ドメスティック・エマージェンシー
それから私だけじゃなく、谷口までもいじめのターゲットになった。
……もっとも、彼はまんざらでもない顔を見せる。
本当に私を好いてるのか、クラスメイトのいじめを、まるで自分らを祝福してくれてるのだと勘違いしてるみたいだった。

その度に私の心を傷付ける。
彼らによって、私の心は切り裂かれる。
谷口という凶器を使って、私は何回も切り刻まれた。

そんなある時だった。

谷口に手首を掴まれた。
休憩中、お手洗いへ向かう私の背中を何者かが押したのだ。

谷口は階段という崖から私を救ってくれたに過ぎない。
彼に悪気はない。

だけど、掴まれた手首は……左手首だった。
私が、傷付く度に切った左手首。
私の痛みを代わりに引き受けてくれた左手首。

左手首を、大切な秘密を、こんな奴に触られた――

次の瞬間、空気を割った音が私達の間に響いた。






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