ドメスティック・エマージェンシー
一瞬、時間が秒数を止めた気がする。
この空間を時計の針が貫いた。

そして、爆破するように笑いが廊下に響いた。

「谷口、振られてやんのー」

「だっせー!脈ねえじゃん!」

「選り好みすんなよー、せっかく好いてもらってんのにさー!」

各々好き勝手に冷やかし、貶し、馬鹿にした。
谷口は顔を真っ赤にさせ、俯いている。

ようやく気付いたのかもしれない。
祝福じゃなく、見下されていたことを。

私はやり場のない焦燥感と戸惑いに苛まれた。
彼を叩いた右手が後悔で震えている。
謝りたいのに言葉は出ない。
周囲の笑い声が地獄から叫び声を上げているかのように、私には絶望的に聞こえた。

谷口を顔を上げる。
涙を溜めた二つの目玉はギョロリと私を捉える。
その瞳に、恨みと悲しみと悔しさと、愛しさが滲んでいた。

「……僕のこと、嫌い?」

彼は彼自身で、私にとどめを刺した。






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