ドメスティック・エマージェンシー

咄嗟にテーブルに置かれた、お土産のタグを外すために出されたハサミに目がいった。
殺される。
脳が殺人の言葉で支配され、身体に信号を送った。
机に置いてあったハサミに手を伸ばし、男目掛けて走り出す。
まるでマネキンのように動かない男の体にそのままのスピードで突進した。


ぶつかってようやく、我に返った。
横断歩道で不意に当たってしまったかのような衝撃に慌てて顔を上げ、真っ黒なサングラスを目にした。
その下にそこだけ血の通った赤い生き物みたいに弧を描く唇を見つけ、恐怖を再び呼んだ。


危険だ。
脳内で警笛が鳴り、跳ねるように離れた。
刹那、自身の持つものを初めて認識し、怯えた。


「ひっ」


血の付いたハサミを後方に投げ、無我夢中でしてしまった行為に焦り絶句し、恐くなった。
男を見ると横腹から赤く波紋が広がっていた。