ドメスティック・エマージェンシー
第六章
この人は私が殺人を犯したらどうするのだろう。

葵の、男にしては華奢な背中をぼんやりと眺めながら思った。

悲しむだろうか。
だとしたら泣くのだろうか。
それとも怒るのだろうか。
軽蔑し、別れるのだろうか。

世界に戻されたからか、さっきの……と、言っても数時間前の出来事が嘘のように感じられた。

雨とは打って変わって優しい葵の部屋。
ラベンダーの香りがほのかに鼻孔を掠める、柔らかい毛布。
傷口を守るように手当てされた肘と膝、それに体はもう安心して疲れきって眠る体勢に入ろうとしている。

葵が不意にくるりと振り返った。

「江里子?大丈夫か?」

心配そうに眉を下げ、私にココアを渡し葵が隣に座った。
ソファーにストンと二つの溝が出来る。

答えずにココアを一口含む。
やはり、美味しい。
それが余計に先ほどの出来事への現実味を遠ざけた。






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