ドメスティック・エマージェンシー

「あ、あの……だいじょ……」


声が震えておぼつかない。
涙目になった視界で、黒い服で身を包んだ男が滲んで、シルエットのように浮き上がった。
恐怖と焦りが迫り上がってきた。


「……ここにもおらんか」


男はため息をついて、呟いた。
反射的に私の肩が震え、しかしそれが冷静さを取り戻すきっかけとなり、大きく息を吐き出す。
きょろきょろとしていた男がいつの間にか私をしげしげと見据えていた。


「それにしても、お前凄いなあ。俺に怪我負わせるなんて。いやあ、痛いわあ」


不意に発せられたあっけらかんとした言葉と流暢な口調に、呆気にとられた。
男は可笑しそうに笑って横腹を触っている。
聞き慣れないニュアンスが余計に状況把握を出来やすくしてくれ、それなのに不釣り合いな明るい雰囲気が混乱させてきた。