ドメスティック・エマージェンシー
第七章
背中を温もりと吐息が撫でる。
腰に巻かれた腕はベルトよりもしっかりしていて、動じないそれが心地良い。
寝返りを打ち、葵の方へ振り向くとキスが投げられた。

思わず頬が綻ぶ。
だらしない顔をしているかもしれないが、幸せだ。

「江里子?」

「ん?」

葵の腕の中に隠れるように入り込む。
布団よりも温かく、洞窟のように真っ暗なそこは私のお気に入りだ。

「憎いかい?」

突如、葵の言葉が雨のように降り注いだ。
驚いて洞窟から抜け出すと、逆光を味方にした葵が優しく微笑んでいた。
雨のように冷たく感じたのは、私の核心を付かれたからだろう。






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