ドメスティック・エマージェンシー
有馬が私に電話をしてくるなど珍しい。
年に一度あるかないかだ。
……それほど、家族は私に無関心だったということだろう。

だけど、不思議なことにもう有馬に対して羨望も嫉妬もなかった。
有馬の苦しみを知ったからに違いない。
有馬も被害者なのだ。
あの両親の[支配]に生きてきた被害者。

私は有馬に同情しているのか。
あるいは同じ立場だという親近感が湧いているのか……どちらにしろ、有馬を憎んでも嫌ってもいなかった。

好いてもいないが。

「おい!無視かよ!」

「え?あ、ああ、ごめんね」

有馬に思考を引っ張られ、ようやく我に返る。
有馬が向こうで笑った気がした。
嘲笑や冷笑じゃない、微笑みを。






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