ドメスティック・エマージェンシー
肘を後ろに引く。
呻き声が耳の近くで弾けた。

「いてっ……。お前、不意打ち多いな」

「あなたもね」

向き直るとやはり殺人鬼だった。
相変わらず柄の悪い仮面に同化したような唇がぐにゃりと三日月のように曲がる。
彼の黒髪をちらちらと降り注ぐ太陽光が照らす。
後ろには雑音、それと葵の声。

私を探しているのがわかる。

私を日常から非日常へ誘い込んだ張本人を睨み付けた。

「何で睨むんや。自己紹介しに来たのに」

「今じゃ無くてもいいでしょ」

「あれがお前が前言うてた彼氏かー」

わざとなのか、所々言葉に棘がある。
口は笑っているが……さっきの冷たい瞳を思い出し、悪寒が走った。

出来るだけ事を荒げては駄目だ。

何の用。
笑顔で問い掛けると、何や張り合いないな、と男をつまらなさそうに石を蹴った。






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