ドメスティック・エマージェンシー

「だから、自己紹介しに来たんや」

「自己紹介……」

そういえば私もしていないことに気付く。
慌てて口を開くが、噤んだ。

彼がソッと自分の唇に指を重ねた。
その動作は息を飲む程に優しく、魅惑的。
女だろうか、一瞬疑った。

「お前のことはよう知っとる。遠藤江里子、十七歳やっけ？血液型はA型、誕生日は三月六日、好きな食べ物はオムライス。今は彼氏の家に住んでて、家族構成は父、母、弟。弟は今祖母の家やっけ。あとはー……」

「ま、待ってっ」

スラスラとまるで自分のことように話していく彼に呆然とした。
途中から私のことだとは思えず、聞き流す形になっていたが、有馬の行方まで知っているとなると話は別だった。

「そんなの……どうやって調べたの？」

「さあ？」

恐る恐る聞くがはぐらかされた。
この男に質問は無駄なのかもしれない。
ため息をついて、じゃああなたは、と逆に聞き返した。

待ってましたと言わんばかりに親指で自分を差し、笑った。

「ゼロ、って呼んでや」