ドメスティック・エマージェンシー
「二つ。……何教えよっかなあ」

指を二本立て、仮面の額の部分に被せるように置いた。
あまりにもおちゃらけた様子に、もしかしたらさっきのも嘘かもしれない、と疑念が浮かんだ。

私の緊張感を解くための嘘。
そうすることで殺人の手伝いをしてもらおうという魂胆かもしれない。

思えば、この男は証拠を残したくないがためにあの時傘すらも置いて行かなかったのだ。
ありえない話ではなかった。

しかし指摘する気はない。
当然と言えば当然なことなのだ。

「ああ、せや!」

思案してるとゼロが何やら閃いたらしい。
視線を再びゼロに戻し、耳を傾ける。

「俺の誕生日は九月十八日や」

目を輝かせ、自分のことを知ってと懇願する子どもに見えてきた。
そんなときにも葵の声がちらつく。

茶番だ。
いい加減帰して欲しくなってきた。






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