フシダラナヒト【TABOO】
まただ。またあの視線。

本棚越しの視線を感じて、私は手に取った本で顔を隠した。





転勤になった彼氏と遠距離になってもう一年。こうやって一人で過ごす休日にもすっかり慣れてしまった。

寂しくないといったら嘘になるけど、ネットを使えば毎日でも顔を見ながら話すことが可能な今の時代、贅沢は言えない。


毎週土曜日に訪れるこの小さな図書館は人も少なく静かで気に入っている。誰にも見られることもなく、誰を気にすることもない心地よい空間。


いくつもの棚の中から、目に付いたタイトルの本を手に取りページをめくる。それがどんな内容でも、どんなに不可解でどんなに過激でどんなに残酷でも、人の目を気にせずに物語の世界に入り込む。



……はずだった。

あの視線を感じるまでは。


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