黄金時間が過ぎるまで
「さぁ…」

のんびりと鳴海は、人事のように答えた。

″…この人、本当にやる気あるのかな…″

千歳の疑惑など、ちっとも気にせず、先程ここに来る前に買った自販機の紙コップをのぞいている…

温かいコーヒーの湯気と香りに包まれながら、鳴海はいっこうに進まない話し合いを楽しんでいた。

ふと気配がして、鳴海は制服のすそが、ちょいと引っぱられている事に気づいた。

「やあ…」

小さな声で、目に見えない何かに挨拶をしている鳴海を、千歳は不思議そうに見つめた。

「え?本当、知ってるの?…へぇ…あ、そうなんだ…あはは助かるな…ありがとうね…うん…え、そうなの…分かった、じゃあまたね」

鳴海は誰もいない所に向かって、手をふった。

目線は下を向いている…

笑って見送ると、千歳が、ぼへぇーっと見ている事に気づいた。

「あ、分かったよ、鍵の管理してる人」

何事もなかったように真顔だ。

「…あの…今誰かいたの?」
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