黄金時間が過ぎるまで
千歳が鳴海に向き直ってたずねると、鳴海は考え込みながら時計に目をやった。

「帰ろっか?」

「へ?」

鳴海は突然立ち上がり、無表情に二人分のカバンと日誌をつかむと、足早に教室を出て行ってしまった。

あわてて千歳は、それを追いかける。

「???」



職員室、下駄箱と先にさっさと行ってしまう鳴海を追いかけて、校門の所まで来てしまった。

「ちょっと待ってよ、ねぇ、教えてくれてもいいんじゃない…ってゆーかどーしたの?」

外はもう日暮れていて、空が茜色に染まっていた。春の風がスーッと吹き抜けていく…

下校する生徒の姿がちらほらと見えた。

鳴海はある場所で足を止めると、千歳をふり返って言った。

「ここじゃない?」

微笑しながら千歳ではなく、その向こうを見ている…

「へ?」

ふり返ると、ちょうど斜めから校舎を見上げるアングルだった。

木々と校門、自転車置き場、かすかに見える体育館…そして夕日で赤く染まった校舎が、そこにあった…

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