ふたりがひとつ
次の日、1限が始まるまで樹は私達のクラスにいた。

有高に朝のホームルームはない。
1限が始まるまでに教室に着けば、遅刻にはならない。
私立であり、尚且つ学校が山の中に建っているため、ほとんどの生徒は学校から出ているスクールバスを利用している。
当然バスは交通状況によって到着時間は違うが、バスが遅れていた時は遅刻にはならないのだ。
ただし、中学生と高校生の始業時間は違い、高校生の方が一時間遅い。
つまり、中学生が2限を行っているとき、高校生は1限を行っているということだ。
よって、遅刻しないような工夫は十二分に出来るため、バスが遅れていたと言うと早いバスに乗るように注意を促される場合もある。

私と凜は、お互い人が多いバスは避けたいという考えで、中学生が乗車する時間のバスを利用していた。
高校生が利用するバスは、各学年の外部生もいるわけで、当然利用者は多くなる。
いくら自宅の方面によって、バスが2つの方面に別れていても、バス停に着く時間によっては、箱詰め状態のまま立ち続けなければならなくなる。
それを避けるためにも、中学生の利用するバスは楽なのだ。

亜紀乃は私達や樹とは、バスの方面が違うし、登校時間がギリギリだ。
バス酔いをするため、たまに自宅から車で送ってもらうこともあり、到着時間はまちまちなのだ。
樹は私達とバスの方面が同じで、時々一緒に登校していた。

この日も樹は私達と共に早く登校し、私達のクラスの教室で始業時間まで話していた。
たまたま早く登校した亜紀乃も加わり、4人で絵を描いたり話をしたりしていた。

ふと亜紀乃が樹に話をかける。

「ねぇ、樹。トイレ行こう?」
「うん。いいよ。」
「那津と凜は?」

2人して首を横に振る。
基本的にある程度人が集まった学校のトイレ(女子は何かと連れだって行動し、とどまって立ち話などもする。トイレは格好の溜まり場なのだ。)を利用することが嫌いな私達。
人がいない、早い時間帯にトイレは済ませておくのだ。

「じゃあ、トイレ行ってくる。」
亜紀乃は樹と共に、教室を出てトイレに向かった。


苛々した気持ちが心に宿る。


またこの嫌な気持ちが来た。
昨日の一件といい、訳がわからない。
そんなに私は樹を取られるのが嫌なのか?
樹が私より他の人と仲良くしてるのが嫌?
何故?友達だから?
亜紀乃だって、いっしーだって友達だ。
私は亜紀乃やいっしーが他の人と、私の知らない話題で盛り上がっていても苛立つのか?
いや、そんなことはない。
ただ、1人。
樹の場合でしか、苛々した気持ちを持ったことがなかった。

私はふと、自分は独占したいのだろうか。
樹を独り占めしたいのだろうか、と思った。
それで納得したのだ。

自分のものを取られた子供のような心情だと思った。

『独占欲』


生まれて初めて気付いた、自分の気持ちだった。
< 4 / 8 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop