ありがとう。言えるかな
二人は病室に向かいながら頭の中で最悪な状況を考えていた

病室の前に着くと、ドアが閉まっていた

『神様お願いします、どうかまだあの人を逝かせないでください』

母さんが両手を合わせ呟いた

そしてゆっくりドアを開けると

そこに父さんは静かに寝ていた、ベットの周りは点滴とかがなくとても整理されていた。

『よかったよかった』

母さんは少しほっとした様子で、父さんの寝ている隣に座り手を握り締めた

兄は母さんとは少し離れてのドアのとこにいたままじっと二人を見つめている

『お父さん頑張ってね、辛かったでしょ?でももう平気だよこれで隆の試合も見に行けるね。ママ本当あなたに出会えてよかったよ、誰よりも愛してるよ。…目をあけて』

手を握ったまま父さんの閉じている瞳に向って囁いた

その状況を見た兄は、そっと一人部屋を出てドアの横で座り込み、両手を合わせ静かに涙を流した

二人はもうわかっていたのだ、もう父さんの瞳に光が写らない事を、家族を見る事も笑う事も何処かにつれてってくれる事も、何もかもが無くなってしまった事そして手の届かない遠くへと行ってしまう事を。

もう会えなくなる……

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